「老後2000万円問題」や「円安」「インフレ」は、どう考えたらいい?
向かって左から:SBIマネープラザ株式会社 ファイナンシャル・アドバイザー部長 神洋平さん、総合企画部参与 浦具成さん
老後資金2000万円問題のほか、円安やインフレなどのニュースを耳にして、不安になっている方も多いでしょう。そこで今回は、私たちがどのように考えたらよいのか、一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会の会員である、SBIマネープラザの神洋平さんと浦具成さんにお話を聞きました。
――「老後資金2000万円問題」が話題になりました。
神洋平さん(以下、敬称略):はい、そうですね。もともと「老後に向けて何かしなくては」と思っていた方が、「老後資金2000万円問題」が話題になり、もっと具体的にアクションに起こさなくてはと思った方が多いようです。「老後資金をどのように準備したらよいか」というご相談を多数いただいています。
浦具成さん(以下、敬称略):その際に気を付けていただきたいのが、「2000万円」という金額は、あくまでもモデルケースの試算で出た金額ということですね。
人生100年時代になり、健康寿命が延びてきたことと、少子高齢化や超低金利政策の長期化の影響もあり、年金給付額の増加が期待できないことで、老後資金の準備が欠かせない時代となりました。以前は、受け取る年金があれば、生活できる時代もありましたが、時代が変わってきたのです。
金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」により、平均的な家庭(高齢夫婦の無職世帯)で試算すると「老後30年間で、約2000万円が不足する」という提言が発端です。ですが、モデルケースの話ですので、全家庭が一律で、老後に向けて2000万円を準備しなくてはならないという意味ではありません。
神:はい、各家庭によって異なります。持っている資産や、どんな老後を過ごしたいかにもよりますよね。2000万円の準備が不要な方や、逆にもっと多くの金額が必要な方もいますね。
65歳や70歳くらいから、100歳ぐらいまで年金を受け取りつつ、それで足りない金額を、自分の資産から取り崩していく生活になるため、現役時代から「資産の寿命」ものばす必要があります。その流れで、「資産運用」を検討する方も多いでしょう。
ただし、「老後資金」の不安がある方に、いきなり「この商品がいいですよ」「2000万円必要ですよ」などと商品や金額について話すことはありません。まずは、ライフプランから考える重要性をお伝えしています。
「ゴールベースアプローチ(※注)」と呼んでいますが、自分の人生のゴールを設定したうえで、「逆算して、今からどのような資産運用をしたらよいのか」と、個別の状況にあわせてお伝えしています。
――具体的には、どのように考えたらよいのでしょうか。
神:まずは、その方の「人生のさまざまなゴール」を考えていただきます。そのゴールを目指すのに適している金融商品(株式、債券、投資信託など)を選びながら、中長期の目線で安定的に資産を増やすことをご提案しています。
私たちは、金融機関として「金銭面で、お客様がより豊かな人生を送っていただけるためのサポートをしたい」と思っておりますので、短期的にお金を増やすというよりも、そもそもの「ゴール」を達成するために、中長期で考えることが大切だと思います。
――20~30代の方と、50代以上の方と、アドバイスは変わりますか。
神:その方のゴールや収入、資産状況等によっても異なりますが、20~30代の方でしたら、気づいたときから、少額でも構いませんので、資産運用を始めていただけたらと思います。
ポイントは「長期・分散・積み立て」の手法です。
浦:投資手法の大切な基本ですね。「長期・分散・積み立て」によって、まず長期間運用することで、短期的な値上がり・値下がりの影響が軽減されますし、投資先を分散させることで、リスクを抑えられます。さらに、積み立てによって時間を分散して買い付けていくことで、高い値段で買うことを避けられますので、ゆっくり、じっくり投資をしていくことができます。
特に20~30代くらいの若年層の方々は、ニュースなどを見て、NISAやiDeCoなどに興味を持つ方が増え、証券会社などの口座数も増えてきていますね。老後までに十分時間がありますので、じっくり増やしていくことができると思います。
神:そして、50~60代くらいの、定年退職直前の方や、定年退職後の方は、定期的な収入を得る期間が減ることと、退職時に退職金が入る方もいるので、それらも加味して考えます。
一般的な金融機関では、積極的な運用などをすすめるケースもあると聞きますが、弊社では安定的な運用に力を入れています。資産を増やす提案も必要ですが、定年退職後は、それまでのように、年金以外の定期収入がありませんので、「築き上げてきた資産を目減りさせないこと」も非常に重要です。昔のように、預貯金では資産を増やせない時代ですので、しっかりとした戦略が必要です。
退職金2500万円の運用についてご相談されたケースでは、ご希望や性格などじっくりお話を伺ったうえで、緊急予備資金として現金800万円を確保したうえで、守りの運用として海外株式と米国債券に分散する投資信託1500万円と、攻めの運用としてテーマ型の投資信託200万円に分けました。
リスクを取りすぎないように注意しながら、資産寿命をのばすご提案をしています。
浦:お客様の中には、30代くらいで事業に成功した富裕層の方や、ご家族が大きな資産をお持ちの方もいらっしゃいますので、その場合は、相続についても一緒に考えたりと、目先のお金の増やし方だけでなく、その方のとりまく環境をあわせて、トータルで考える必要があります。
神:資産が潤沢にあれば、資産運用をしなくても豊かな生活を送れる方もいるかもしれませんが、資産運用をすることで、細かな節約をしなくても済むと考えることもできます。その方の性格や考え方にあわせて、資産を守っていくことも大事ですね。
――最近は「円安」「インフレ」というキーワードも話題です。どのようにアドバイスをされていますか?
浦:まずは「インフレ」による、私たちへの影響を理解することが大切ですね。インフレによって、世の中のモノやサービスの値段が上がっていけば、今持っている資産が目減りすることになります。今持っている資産で余裕がある方でも、今後インフレが急激に進むことがあれば、余裕があるとは言えなくなるかもしれません。
そのため、株式等で運用するだけでなく、例えば不動産関係への投資など、幅広い視点で運用を検討する必要があるでしょう。
神:最近は、海外旅行になかなか行けない状況ですが、海外では日本以上にインフレが起こっていますし、さらに円安も進んでいます。今、海外に行かれると、日本円に換算した場合の物価の高さに驚く方は多いと思います。
浦:日本にいるとあまり実感がわきませんが、“円の価値”を見ると、大きく下がっていますよね。原油などのエネルギーのほか、穀物も上がっていますし、今後生活に大きな影響が出てくることは間違いないでしょう。
――円安やインフレに、どのように対処したらよいでしょうか。
神:円安対策では、簡単な方法の一つに「外貨を持っておくこと」があげられます。円安は、「円の価値が下がること」ですので、円預金だけを持っていれば、実質的に目減りしてしまうわけです。そこで、外貨預金を持っておくだけでも円安には対応できます。
ただし、今は外貨預金の金利も低いので、米国国債などをご案内するケースも多いですね。もちろん、海外の株式を持つことも円安対策になりますが、「株式は怖い」という方もいますので。大きなお金を投資する場合は、安全策を取って、外国債券を検討するケースが多いです。日本円に比べて金利も高めですので。
また、インフレ対策として不動産をご提案することもありますが、現物の不動産は大きな資金が必要になります。そのため、数十万円から購入できるREIT(不動産投資信託)や、不動産信託受益権を小口化したような商品などをご検討されるケースも多いです。
とはいえ、一律で「みなさんには、これがおすすめですよ」と伝えることはありません。お客様と信頼関係を築いたうえで、ゴールだけでなく、性格やお気持ちなどを理解したうえで、「それなら、これがおすすめですよ」と個別にアドバイスすることが大切だと思っています。
※注:「ゴールベースアプローチ」とは、投資に際して、顧客とその家族の「ゴール」(人生の目標や深刻な課題・苦悩等の総称)を包括的にプランニング等を通じて特定した上で、その実現のために必要かつ許容可能なリスク水準の中長期分散ポートフォリオにより投資を実行し、継続的なレビューによりゴールへの進捗や追加ゴールの設定等を必ず行うアプローチのことです。