「資産運用はしたほうがいいの?」最初に考えるべきこととは
株式会社財コンサルティング 代表取締役社長 田中唯さん(左) 代表取締役会長 稲葉充さん(右)
資産運用のニュースや記事を見かけることが増え、「資産運用はしたほうがいいの?」と思うことはありませんか? そこで、資産運用についてどのように考えていったらよいか、一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会の会員である財コンサルティングの田中唯さんと稲葉充さんにお話を聞きました。
――「資産運用をしたほうがいいですか?」と相談された場合、どのようにアドバイスしていますか?
田中唯さん(以下、敬称略):そういうご相談があった場合、「資産運用をしたほうがいいのかどうかよりも前に、実は考えることがありますよ」とお伝えしています。
なぜなら、「お金は増やせるだけ増やした方がいい」「誰でもできる、ローリスク&ハイリターンの資産運用方法がきっとあるはずだ」などと勘違いしているケースがよくあるからです。
もし、誰もが簡単にお金を増やせる方法があれば、日本人の多くの人が大金持ちになっているでしょう。でも、実際にはそうではありません。また、やみくもにお金を増やそうとして、失敗する方も多いのが現状です。
お金が増やすことを考える前に、「どのような人生を生きていきたいか」を考えていただくことをおすすめしています。
――「自分の人生」を考えたうえで、お金のことを考えるというステップですね。
田中:はい。例えば、結婚したい、子育てをしたい、転職したい、キャリアアップしたい、海外旅行に行きたい、家を買いたいなど、いろいろ夢や目標、目的があると思いますが、それらを実現させるために、第一に現在の資産で足りるかどうかを確認して、第二に足りなければ運用を考えるという順番が大切です。
稲葉充さん(以下、敬称略):資産運用では、今日明日使うお金を準備しているわけではないので、そのような長期的視点を忘れないようにしたいですね。短期的に「大きなお金を手に入れたい」と考えて投資商品を購入する人もいますが、そのような考え方はギャンブルをする人の考え方に近いように思います。すなわち大きなお金を手に入れられる可能性がある一方で、大きなお金を失う可能性もおおいにあります。
そうではなく、資産運用は、少しだけ贅沢できる暮らしを実現するためのものです。資産運用単体ではなく、仕事で収入をコンスタントに得る両輪で考えることも必要ですね。
あくまでもイメージですが、3~5年ほどで2倍、3倍にしようとするのではなく、20年~30年といった長期的視点で取り組んでいただけたらと思います。
――初心者は、短期間で「増えた、減った」と考えてしまうかもしれません。
田中:そうですね。短期で結果を求めてしまうと失敗しがちですし、そもそも「知識や資金がないと、資産運用は始められない」と足踏みしてしまう人もいるでしょう。
資産運用は学問として確立しているものなので、少しずつ運用資金を増やしていけば、時間もお金も無駄にすることなく、資産をつくっていけるのではないでしょうか。
――最近「資産運用」について世の中でニュースを見る機会が増えるようになった背景には、どんなことがあるでしょうか。
稲葉: 長寿社会という側面は大きいですね。私たちは100歳くらいまで生きる可能性がありますから、それだけお金が必要です。
2019年には「老後資金2000万円問題」で急に老後資金にスポットライトが当たりましたが、定年退職後は、年金と自分の資産で生活をしていくことになるのは、いつの時代でも同じです。
その期間が一昔前は10年程度でしたが、長寿社会になった現在は、20年、30年と長いので、準備すべきお金も多くなるのです。
さらに今は給与が伸びて銀行、郵便局に預けていれば勝手にお金が増えた昭和の時代と異なります。収入が増えない中で、ディスインフレとはいえ暮らしの質が上がり欲しいものも多い。それらを手に入れるためには資産運用の必要性が高まっているともいえます。
田中:長寿社会や少子高齢化社会が来ることは、最近話題にはなっていますが、50年ほど前から言われていることですよね。確定拠出年金制度は2001年から始まっていますし、国は「貯蓄から投資へ」とずっと言い続けてきました。
財形貯蓄や持株会など、日本の会社でも昔から取り入れられてきた資産運用方法もありますし、急に「資産運用が大事」という時代になったわけではなく、いつでも、誰でも、自分の人生に必要なお金を準備するには、何かしらの資産運用が必要なのではと思います。
稲葉:高校の教科書に資産運用が取り上げられたり、確定拠出年金にイデコという愛称がついたり、来年は新NISAが始まるなど、マスメディアが資産運用を取り上げやすくなっている面もあります。
昨年は数十年ぶりに物価、為替、金利が動き出しました。数十年間にわたり物価や金利が上がらなかったおかげで、給与が伸びなくても、人並みの生活を維持することができました。昨年の金融市場の動きが一過性で終わるのか、大きな歴史の転換点になるのかは誰にもわかりませんが、もしも物価や金利が今後も一定程度引き上がるとするならば、資産運用は楽しく人生を謳歌するために、ますます重要なアイテムになると思います。
だからこそ、焦ってとにかくお金を増やすことを考えずに、まずは「どんな人生にしたいか」を考え、そのために必要な資金を算出し、長期的視点で資産運用にじっくり取り組む、というステップを大切にしてほしいです。